HDR考 4 ’04年9月30日改訂 3) 仮想トラックが使えない これも現在のA機では困難なことである。同時再生もできず何が録音されているか切り替えてみなければ確認できないようなトラックは逆に使用しにくく、実際にPCベース機で作業中にキューシートが紛失したケースでは、確認作業に相当時間を費やしたことがある。 しかし何等かの方法でこのような一時的にトラック数が増えたのと同等の機能、には魅力がある。A機では実現されていないが、理論的には異なるソングを同期再生(ヘッドシークに余裕があれば。再生だけに限定すればA機でも可能なはず)し、それぞれのソングから必要なトラックを選べるようなコマンドをつくれば、要求は満たされる。つまり48トラック(24トラックのソングを2曲分で)の中から、24トラックを選択再生すれば実現できる。録音は通常の1ソング単位で行う。しかしそのようなコマンドはA機では用意されない。 ***************************************** ** 総合的評価 現在市販されているDe-fragmentation機はA機のみであるが、調査を進めるうちに気付いた点がいくつかある。 桙ヲる能力を持った機種がFragmentation機にほとんど無いのである。つまり連続性が要のものでありながら、編集点をショートループ再生や波形表示で的確にあらわせるわけ無いのに、いつのまにかそれが主流になって久しい。確かにアナログ的手送りによるスクラビング再生は、熟練が必要であるが最も高速で確実性が高い方法なのである。このことに限らず、録音部位の絶対位置が意識できることは重要で、一台のドライブの中にもテープと同じように、「良質」の部分と「粗悪な」部分があり、テープのように両端は使用に適さないなどの「常識」が通用するのである。 これらのことからA機の設計者は、まずテープで培ったノウハウを最大限に受け継ぎ、さらに録音という哲学に於いてテープの完全な上位互換を目指したものと想像できる。このテキストでは触れていないが、入出力A/D/Aコンバータとそのバッファ・メモリーに供給されるクロックの発生アルゴリズムには、単なる安定性ではなく、なんとフライホイール・マス(回転質量)をエミュレーションするルーチンが組み込まれているようで、メイン・クロックよりも上位に位置しているのである。これによりデジタル特有のジッターや変動パターンから逃れようとしているようであるが、これにより見かけのクロック精度や追従性が相当犠牲になっているが、その効果なのか出力音が大変滑らかな音に聞こえるのである。・・・・注3 メディアとしてのHDドライブの位置付けも、他機種と異なっている。A機には内蔵されるドライブは無く、すべて外付けのリムーバブルのメディアとして位置付けられている。完全に消耗品として、バックアップも同様のHDに取り、そのHDもスレーブとしてでは無く、マスターと何の区別も無い。いうなればダブル・カセット・デッキのようなものである。便宜上PCとのファイル交換のためのイーサ・ポートを備えるが、設計意図から考えると、完全に拡張不要な完結したスタンド・アローン機である。なぜならA機の現時点に於いて最良の再生は、録音に用いた「その機」を用いることだからであるが、これもアナログレコーダから受け継いだものなのだろうか。 De-fragmentationと直接の関係は無いが、搭載されているA/D/Aコンバータも自社開発品で、現在主流ともくされる他社製のものと若干の異なる特徴を有している。現在のA/D/Aコンバータの多くは高次オーバーサンプリングであるためデジタルフィルターを内蔵しているが、そのセッテイングが若干異なるようである。例えば高域限界近く(−3dB以上の帯域、21KHz〜)で、いくつかの他社24bitの製品では多角形に歪みが生じ相対的にレゾリューションが急速に悪化するが、A機に搭載されているコンバータではその悪化が見られない。そのかわりに肩特性が悪くいわゆるロールオフしているのであるが、その特性もテープの特性を意識したものかも知れない。 同じくA機のA/D/Aコンバータであるが、他機種との相違として特殊な「ディザ」が用いられている。「ディザ」そのものは、ここ数年デジタル・オーディオに於いて急速に広まった技術で、「ピュアなA/D/A変換よりも、変換時に固有のノイズを混入することで、相対的解像度や量子化雑音を〈聴感上〉改善できる」というものである。マスキング技術のノイズフロアへの応用と言えなくもないが、この故意のノイズ混入によって測定上の数値は悪化することが多い、極めて聴覚心理的手法である。A機にもこのディザが組み込まれており、アナログ入出力時には固定で作用する。A/D変換時とD/A変換時、それぞれに最適化されたディザが付くが、その入り方が他機種と随分違っている。連続したノイズでは無くバースト状なのである。D/Aディザが8mV/20mVが600ms/700msの周期で交互に出現、A/Dディザが同じく8mV/20mVで180ms/200ms(こちらは+−30%程度でゆらいでいる)の周期で交互に出現している。(アナログ・オッシロスコープによる観測。デジタル96kfs24bitサンプリングの観測では明確にバーストは現れない)このようなゆっくりしたバーストでは、一般的にはその周期性が聴こえるはずなのにA機では周期性はほとんど聴こえず、連続したホワイトノイズ様に聴こえる。A/Dディザに切り替えると、およそ3dBノイズレベルが上昇したように感じられる。しかしアナログ的に測定するとあまり高いS/Nとは言えない(20mVは大きい)がデジタル的にはスペクトル的にも平坦化された特性しか観測できず、しかも聴覚的には静かという、極めて巧妙なディザの使い方と言えるかもしれない(実測で106dB程度)。このことから、A機のアナログ出力の受け方によっては、(ミキサーの高周波特性や入力インピーダンス特性によっては)このディザが裏目にでてしまうかもしれない。おそらく−3dB at 50kHz程度でロールオフさせた場合にベストな環境になるのであろう。このようなマッチング特性、A/DとD/Aでの使い分けなど見るとこれまた、その挙動がテープMTRを彷彿とさせる。 現在A機のOSは1.18版であるが、いくつかのバグが残っている。アナウンスされているオプションも未発売のものが多い。しかし選択肢としてA機の存在は極めて大きく、他社の同様な製品が出現すればより一層の発展が期待できると思われるが、その兆候は今のところ無い。 **** A機はどこまでDe-fragmentationか **** このHDR考の冒頭で、A機を「今のHDRが出現する前に登場するべき、順番を飛ばされ遅れて出てきた、当たり前の能力のレコーダー」と形容したが、本当にそれは可能だったのであろうか。A機に内在するFragmentationの技術を検証してみたい。 Fragmentation技術から派生したと思われる技術は、Long-Fromat時に不良セクターを検出し登録、その情報をもとに不良セクターを回避し録音再生を行うことと、ソング長は常に延長可能であることに見受けられる。 (仮に5曲録音したとして、その一曲目を後から延長したくなった場合に、テープではスプライシングを駆使しなければ不可能であったその要求が、A機では可能なのである。技術的にはもともとの1曲目の終了セクターに6曲目の開始セクターをリンクし、2曲分連続録音・再生することを1曲に見せ掛けているのである。当然もともとの終了セクターと6曲目の開始セクターの間でヘッドは大きく移動する)この点についてォる。つまり、1曲目をセカンドドライブにコピーし、そこで延長追加を実施すれば良いのである) また、録音セクターと再生セクターをダブルシークによって発生時差を吸収していることもFragmentationに含まれるかもしれない。 これらの事実から、確かにA機はそのファイル構造からはDe-fragmentationであると言えるが、それを支える技術的背景に於いては明らかに「Fragmentation後に生まれた」痕跡が見られる。従って冒頭の形容である「今のHDRが出現する前に〜」登場することは困難であったということになってしまう。少々不適切な形容であったかもしれない・・・・。 **** 付録資料 A機に残るバグと対応策(ver,1.17時点) **** この文章作成時(2003/12/10時点)ではメーカ側で以下の症状は未確認である。症状が個体差によるものか、バグなのか、あるいは筆者の勘違いか確定できているわけではないが、ここに挙げた症状に関して筆者側個体では再現性が確認されている。 1) 〈HD to HD copy〉などの編集コマンド(ドライブ1からドライブ2へのソングやプロジェクトごとのcopyで、インターバルが入らないため高速に実行される)で、書き込み側ドライブが遅いなどの理由で正常に実行できていない場合でも、エラーなどの表示が出ない。 対策)メーカ側はチェックを強化しエラーを確実に表示する、またはそれが発生する可能性のある使い方をマニュアルで警告すべきである。 原因として、大容量のキャッシュ・メモリーを搭載した大容量ドライブの内周セクターで発生しやすいが、もともとこの周辺セクターは読み書きが遅く(80GBドライブで24トラック使用時に最初の10分相当、120GBドライブで同20分相当の領域)その領域を編集やコピーで書き込みを行う際に発生しやすい。 ユーザ側でできる防衛としては、その遅い領域は確定できることから、重要な録音や編集、あるいはコピー先には使用しないことである。テープでは常識的なことである。また既にそのような領域に録音してしまったものを編集する場合には、安全な(読み書きの速いドライブ中程の領域)部分にコピーしてから作業を行う。またこの読み書き速度のマージンはアクセスランプの点滅で表される(赤色の点灯時間が長く、緑色の点灯時間が短い場合マージンが少ない)ので、そのデューティーサイクルから読み書きマージンの確認をする習慣を身につける。また、作業結果を必ず確認する習慣を身につける。 2) 特定の条件下でCUT/PASTE、COPY/PASTEで時間軸上で移動しようとしたとき、移動が実行されない。(何か、書き換え作業はしているが、結果を確認すると設定した移動は実行されていない) 発生条件) ソング冒頭の1秒以下を編集開始点(例えば00h00m00s05f50sf)として設定し、冒頭の貼り付け点(同00h00m00s00f00sf)へ貼り付けしようとしたような場合。いわゆる頭詰め。 対策) 編集開始点と移動後貼り付け点にそれぞれ1秒のオフセットを付ける。 00h00m01s05f50sfを 00h00m01s00f00sfへ移動することで実行できる。 この作業はトラックスリップで調整した数値を固定したい場合や、1ソングの1トラック中で複数回トラックスリップを付けたい場合、マイク位置の問題でハース効果や時差によって起こる空間拡がり度を調整する場合の修正として使用することが多いので、注意すべきである。 3) ループ再生機能を用いる場合、ループスタートポイントがループエンドポイントよりも後に設定されると、″Error: LoopStart 〉 LoopEnd″のメッセージが表示され、以後のループ作業が続行できなくなるはずが、特定の条件下ではその設定を行っても実行されてしまう。(Jumpとして機能する) 発生条件) ループを使用するには、スタートとエンドのポイントを設定し、なおかつオートプレイとオートリターンを有効にしておかなければならないが、先にオートプレイとオートリターンを有効にしておき、再生しながら後から″SET LOCATE″ボタンによってスタートかエンドポイントをStart〉Endになるように設定すると、エラー警告を表示せずそのまま「Jump」として機能する。 この問題は、使用者に不利になるような問題では無いが、むしろあると便利な機能である。どの手順で操作してもエラーにならず、「Jump」として使えるように手直しして欲しい。 4) 本稿のテストでも、大変優れた減電圧特性が検証されたが(68vまで正常動作。ただし再起動には75v必要)、その電圧を下回るとシステムが暴走、再起動や操作の一切が不可能となる。問題はフロントパネルにあるソフトウェア電源スイッチでソフト・オフされている場合でも、68v以下を一度でも経験すると再起動、および一切の操作が不可能となる。 対策) このソフト・スイッチは表示とドライブへの電源供給を停止しているだけで、内部的にはすべてのアナログ/デジタル回路は機能したままで、プログラムも走ったままである。従って、システムに異常が起こるほど電圧が下がった場合、ソフト電源のオン/オフとは無関係に暴走が起きる。普通のデジタル機器では電圧が一定以下に下がると(一般に定格の−15%程度)電圧監視チップ(ハードウェア的に)が作動しシステムをリセットするような設計になっているものなのであるが、A機ではメカが作動する限り極限まで録音をし続けようという設計なのか、単なるリセットチップの付け忘れか、理由は不明だが、そのようには振舞わない。いずれにせよ結果的に「極限録音機」になっているのだから、個人的には歓迎したい。しかし、そのような再起動不能や操作不能に陥った場合の処置方法がマニュアルに記載されていない。このようにゆっくりと電圧が立ち上がる電源環境は意外と存在するし、電源オフした状態では(つまりオフにしておき、その間に電源を調整し直すなど)ユーザーは「安全」と思い込む可能性もある。 対策としては、A機への電源供給を完全に停止し、10秒以上の間をとってから電源投入する。またこのような暴走状態に陥るとドライブは回転しっぱなしになるので、急いで「安全」にドライブを退避しなければならない。それには背面パネルのハード・パワースイッチを切るか、コンセントを抜く必要がある。ハードオン/オフ時にはショックノイズが出力されるので注意すること。 5) 特定のドライブで編集作業が中断し作業を終了してしまう。 原因) A機はロングフォーマットを実行することで、不良セクターを検出し登録、その不良セクターは以後録音再生には使用されないが、このような不良セクターが発生し始めたドライブでは徐々に不良セクターが増加していく傾向がある。このようなドライブで編集作業を実施すると、不良セクターに遭遇したときに偶発的にそこで作業を中止することがある。問題はそのときにエラー表示が出ないことなのであるが、作業中であることを示すプログレス・バーを見ていれば中途で作業を終了したことが確認できる。 対策) このような不良セクターが発生しやすいドライブを使用しているとき、その編集作業中のプログレス・バーの動きが、いびつな動きの場合、警戒すべきである。また作業の結果について開始点と終了点くらいは確認すべきである。 根本的な対策としては、そのような兆候のあるドライブでの編集は諦め、正常なドライブにコピーし作業を続行すべきである。 ++++ その他の問題点 ++++ A機に於いてDe-fragmentationをベースにしていることを中心に考察してきたが、そこから派生した論理としてもう一つ問題が発生する。それは、ソングという複合ファイル(イーサ/ファイアー・ワイアー接続してデータ転送する場合、他機との互換性から1トラック1ファイルとして扱うことができるが、A機の内部的にはそのトラックが複合したかたちでファイルとして扱われている)を延長・拡大は容易にできるが縮小・短縮しにくいという問題である。1ソング5分や10分なら、コピー/ムーブで必要部分だけ切り出せばよいが、De-fragmentationが真価を発揮するのは長時間・巨大ファイルに於いてである。録音制作というものは必要な部分だけピンポイントで収録するものではなく、余裕をもってフルカバー録音し、必要部分を切出し編集するものである。3時間のオペラなら前後を含め4時間程度は回す必要がある。録音事故の多くは止めたときに起きるものだ。止めるから再スタートしなければならないのである。止めなければトラブルは減らせるのである。ところで、A機にはファイルを短縮するコマンドが無い。メディアであるドライブをケチるなということか。確かにテープしかなかった時代どうやって長時間に対応するか悩みのタネであった。A機の設計者も同じことを夢見ていたのか。そして、短縮するから事故やミスが起こるというのだろうか。