HDR考 5 ’04年9月30日改訂 宇都宮 泰 −−注釈−− 〈注1〉 この文中では便宜上、外周から内周へ向かってセクター番号は増大するように記述したが、実際の製品では外周から使っていくものや、シッピング・エリアが最外周に位置しているものなど様々である。また、FATの物理的絶対位置についても同様である。 ドライブをソフト・ウェア的に見ると物理的絶対位置はあまり意味を持っておらず、論理的位置によってアクセスすることが思考のマナーとなっている。ハード・ディスクをソフト・ウェア的に考える時に、記録媒体は仮想の円筒状の表面であり、円盤では無い。この円筒をシリンダーと呼び、円筒1周に16のセクターが並ぶと思考することが強要される。ハード・ディスク・ドライブに貼られたラベルに記載されたスペックは、この論理的数値であって、物理的構造を表しているわけでは無い。円盤状の媒体なのだから、内周には僅かのセクターしか存在できず、外周には多数のセクターが存在する。その円盤が一定回転数で回転しているのだから、単位時間あたり読み書きできる速度は、内周と外周では当然異なる。本文中では最初に録音するときに内周から使い始める、と記述したが、ドライブによっては外周から使っている場合もある。(A機に於いてそれを見抜くにはアクセスランプの点滅で確認すれば良いが) 実際のドライブでは円盤状の媒体なのに論理上は円筒という、この矛盾はどこかで吸収されなければ使いにくくてしょうがない。そこで製品としてのハード・ディスク・ドライブには必ず電子回路基板が搭載されており、(その回路を外すことはできないし、その意味も無い)その回路によって、円盤を円筒に見立てているのである。この回路基板にはディスクを一定回転数で駆動するサーボ回路、ヘッドをシークさせるサーボ回路、キャッシュ・メモリー、そして論理的に最も重要な「円盤−円筒変換回路」が搭載されているのであるが、多くの解説書ではこの点が省かれている。この変換回路が内周から使うか外周から使うかを決めているのである。多くのハード・ディスク・ドライブには「容量が減ってしまう」ジャンパー設定があるが、この設定は単に容量を減らしてOSやハードに合わせるためのものではなく、この円盤−円筒変換回路の設定を変え、条件の良い部分だけを使おうという意味(異なる目的のこともあるが)である。 ここで私が指摘したいことは、ここに(円盤−円筒変換や、このテキストでは扱っていないがエラー訂正やスクランブルに於いて)「思考の落とし穴」あるいは「壁」があるということである。(つまり論理上のメディアである均質な円筒からは、現実のメディアである円盤からはイメージできないという意味で「壁」なのであるし、実際の音や操作性にその違いが表れるという意味で。また私は「それが同じで、考えるに値しない」とするものに「記号論的思考」の注釈を与えたい)マシン・デザイナーと制作者の間に横たわる溝はこれらの障害に阻まれ、正常な発達を阻害されている可能性がある。その証拠に「音の善し悪し」を現場で真剣に議論しなくなって久しいし、切実な問題として「客離れ」が進行していることがあげられる。前者は「デジタル・テクノロジー」という宗教概念にも酷似した価値観のもとに、その疑問は粉砕され、後者は「権利」という暴力によって鎮圧することしか頭に無いのが現状である。 この「注1」について当初は記述を見合わせていたが、「知らなくて良い」ことで通用するのは「事務機」についてであって、録音を考える場合には必要と考え掲載した。内周から使うのか外周から使うのか、ドライブによってまちまちなのなら「絶対位置」を知ることにはならないのではないか、という指摘を避けたかったからであるが、「思考の落とし穴」を避けるにはやはり必要と考え改訂した。ニュアンスとしては「連続性」を考えるステップとして捕らえていただきたい。どうしても知りたいなら(その結果としてドライブには致命的ダメージとなるが)ドライブの蓋を開き、私が行っているように実際のヘッドシークを観察することである。より正確にはIDEプロトコル・アナライザーを接続し「連続性」を確認すべきである。 〈注2〉 セクターの節約について O×2バイトで求められ、およそ344MBとなる。(16ビット、44.1kHzとして) ~2バイトで求められ、およそ46GB消費する。単純に比較すると約134倍も容量消費が多い。 この違いを節約というのか。別の見方をするなら、前者では音の無いところではサボっているとも言える。それに対して後者は要求された時間内は音の有無にかかわらず、常に稼働していると言える。逆に言えば、このセクター消費率は稼働率とも考えられる。さすがに指定されたドライブを使用する限り専用機では問題は起こらないが、PCベースの場合、使用可能トラックを全て使用し編集を繰り返した場合、稼働率が100%を大幅に超えることもある。100%を超えると何等かの破綻が訪れる。そして使用者には何時100%を超えたのか知らされない。 後者のDe-fragmentation(A機の場合)では常に100%の稼働率で、それ以上、以下にはならない。厳密には時間密度に於いて、内部編集処理を行っているときとドライブ間で高速コピーを行っているときが100%で、次いで24トラックモードで再生と録音を行っているとき70〜80%、同じく24トラックモードで全トラック録音または再生しているとき40〜50%、それ以下のトラック数のモードではそのトラック数に比例して低下するが、その数値はほとんど変動しない。 パワー・アンプで例えればわかりやすい。前者はAB級駆動のオーディオ用(定格出力で連続使用することが考えられていない)後者はA級駆動でなおかつ業務用仕様(定格出力で連続使用することが前提で、なおかつ電力消費も常に一定)といったところか。 ソフト開発元の内部資料を見たわけではないが、想定されている作業はPCベース機の場合、編集工程が1トラック10工程未満かつ、使用プラグイン1以下で、全長20分程度と思われる。ドライブそのものの速度からは、現在の平均的E−IDEでは稼働率100%、24bit、48KHzfsで計算すると、最良の条件で50トラック分程度の読み書きが限界と思われる。実際には断片化やその他の時間的ロスにより、相当な積み残しが発生していると思われる。つまり作業の進行に伴い稼働率が変動することが問題なのであるが、それに対する保証や安全率を公表しているソフトは無いようである。ただ一つ言えることはそれがイマジネーションを支えるのに十分かどうかという点で、私には普通のロック/ポップに限定するなら、なんとか破綻しない程度にしか思えない。 〈注3〉 A機の音の善し悪しについて 客観的に記述しにくい内容なので、本文中では「出音の滑らかさ」程度に留めておいたが、現実のA機の音品質はデジタルとしては想像を超えるものがある。筆者はプライベートでStuder社製A−800mk3−2inch/16tr,同24tr,3M/Mincom division M−79−2inch/16trを愛用しているが、このうち24trおよび仕事先スタジオのD−827(3348互換機)は今後使用しないだろうと予測している。つまりA機は情報量、信頼性に於いてフル・チューニングされた2インチ・マシンの24トラック以上、16トラック未満という判断が根拠である。ランニング・コストおよび維持費を考慮しないとしての話であるが。 現在A機は試験使用中であるが、困った問題がある。多くの録音現場では即日サンプルを関係者に配布することが多いのであるが、その際使用されるメディアはCD−RかDATが用いられる。問題は情報量に於いてこれらのメディアとA機の落差が大きすぎ、そのためサンプルの役に立たなことから、A機をメインに使用した録音についてのサンプル出荷が滞っていることである。それがデジタル・コピーであろうとアナログ・コピーであろうと状況はあまり変わらない。原因の一つにはA機に固有の特殊なディザの影響(ディザはコピーされない。またディザだけでそこまでの差は生じない)らしいのであるが、その違いの激しさが専門的な聴覚を持たない者にも容易に識別できるくらい大きいのである。 こんなことはPCベースの、たとえ192KHzfs/24bitのセットでも、容易には経験できなかったほどの衝撃的問題である。 A機に限らず製品評価記事等では一体どのようなソースを用いているのであろうか。既に他のメディアに録音されたソースで判定しているのではあるまいか。まして市販のCDやDATのソース、PCに取り込まれたものやデジタル・ミキサーを経由した信号でのテストは無意味である。実際にそのような環境で使用するのかもしれないが、それでは製品の持つポテンシャルは見抜けない。私の場合、テストであろうと独立したマイクと専用にHA(Head Amp,:マイクレベルからラインレベルへの信号増幅を行う回路で、通常10〜1000倍程度の増幅率を持つ)を用意し、(比較の場合にはHA以降で分岐)評価している。音楽の分野も雅楽、オーケストラから、効果音の類いまで、マルチ録音のポップスは最後のオマケである。ペア・マイク録音されたステレオ・ソースはマルチよりも数段厳しいテストであることを知らないのだろうか。 〈注3の注釈〉 A/D変換され内部処理後にハードディスクへデータが送られる前と、ハードディスクからデータが読み取られアナログあるいはデジタルで出力される前には必ずバッファーと呼ばれるメモリーを経由するが、これはハードディスクからの出力がバースト状であるためで、時間軸上に整列させるためにこのメモリーに一旦蓄え、一定間隔で読み出すことは前期したが、そのバーストが等間隔か不規則か、あるいはそのメモリーが大きいか小さいか、によって音に違いが生じる、という論理的証明は無いようである。しかし、現実にPCでCD−Rを作成したり、ハードディスク・レコーダーに於いては、このバーストの規則性やメモリーの大小によって音の品質が変化することは、筆者の知る限り多くの録音現場で認知されている。また、明らかに信頼性に大差があることは証明を待つまでもない。近年庶民的PCでCD−Rが容易に作成できるようになったのも、メモリーが(PC本体のRAMとドライブに内蔵されるキャッシュ・メモリー)が大型化し、単にバッファー・アンダー・ラン・エラー(書き込み速度にデータの供給が追いつかない、あるいはバースト・タイミングが合わない、ことによって発生する、メディア上のデータ不連続。データ不連続やアン・フォーマットがあると読み取れなくなる・・・)が出なくなったにすぎない。その証拠に多くのPCソフトでCD−Rを書き込み中、他の作業が出来ないではないか。たった2トラック分のデータを書き込むことが、なぜそのように大変なのか考えてみるべきであろう。 〈注4〉 この「HDR考」に於いて中立性を損うほどA機を評価していることは私自身認めるところであるが、決して特別な思い入れや袖の下があるわけでも、ましてや誰かに依頼されたものでは無い。むしろその点ではB機に関してメーカーからの資料および現物の提供があったことはここに記述しておきたい。またB機メーカーの対応も良心的で好感の持てるものであったことを付け加えたい。同時にA機には多くの問題が未解決のまま残っているし、何よりクセの強い操作性とデザイン、強情なまでの設計思想など、初めて接した者を圧倒するほどのものがある。本稿の目的は決してA機の販売促進ではない。しかしこれだけのポテンシャルがありながらA機の販売戦略は「低ランニング・コスト」や「価格破壊」に終始しており、「啓蒙」の部分があまりに虚弱に私には思える。私の目的は、この啓蒙を前提とした使用者にとっての選択肢の提供と、かなうなら設計者や製品企画者への参考となることを望むものである。 そのことが低迷する音楽出版の活力につながると信じるからである。